当初の目標を達成しました。第二目標を目指します!
2023/3/15 18:19
当初,3月の1ヶ月間で100万円を目標にしていたクラウドファンディングですが,15日間で当初の目標を達成しました。我々が思った以上の温かい応援に,心から感謝致します。
さて,目標達成がほぼ確実になったため車両の購入の準備に入ったところ,大きな問題が出てきました。当初より,自己資金にクラウドファンディングの寄付を加えて中古車の購入を予定しておりましたが,懇意にしている自動車店によれば,半導体不足によるハイエースの新車供給の遅れなどの影響で中古車が不足しており,この金額ではある程度長い間安全に使える車の調達が難しいとのことです。
また,活動の継続的なアピールのため,車両塗装(ラッピング)も重要との声をいただいております。これも意外と費用がかかることがわかって参りました。
そのため,第二目標を180万円と定め,クラウドファンディングを3月末まで継続します。
ひきつづきの応援をお願いします。
特定非営利活動法人ストランディングネットワーク北海道
理事長 松石 隆
研究紹介:ネズミイルカの亜種
2023/3/15 12:47
今回はSNHの活動によって得られた標本を用いた,ネズミイルカ(学名はPhocoena phocoenaです)の「亜種」についての研究を紹介します。
「種」ほどの違いはありませんが,形態や遺伝系統が地域間などで異なる―――そんな「亜種」がネズミイルカにも認められています。
・大西洋沿岸域に生息するP. p. phocoena
・黒海やアゾフ海の沿岸域に生息するP. p. relicta
・太平洋沿岸域に生息するP. p. vomeria
の3亜種です。
北海道周辺の沿岸域に生息するネズミイルカは現在のところ,P. p. vomeriaとされています。しかし以前より多分野においてP. p. vomeriaとの差異が研究されており,北海道周辺の沿岸域に生息するネズミイルカはP. p. vomeriaと様々な点において異なる集団であることが明らかにされてきました。
一方で,北海道周辺の沿岸域に生息するネズミイルカがP. p. vomeriaとどの程度異なる集団なのかを体系的に示した論文は無いため,集団を分けるための基礎情報が不足し,他亜種と比較してまだまだ研究すべきことが多く残されています。
現在,SNHの活動により得られた標本を活用し,北海道周辺海域のネズミイルカとP. p. vomeriaの違いを体系的に示し,今後の研究や将来の保全へ基礎情報を提供しようとする研究が進められています。
しかし先日の活動報告でもお伝えしたように,北海道中に打ちあがるネズミイルカの標本を多くの数集めることは,調査員の負担が大きい現状の体制では困難を極めます。
調査効率が向上し,十分な標本・データがそろった暁には,「新亜種」が発表されるかも…?
鯨類紹介:ネズミイルカ3
2023/3/14 12:28
現在,小樽市にあるおたる水族館では4頭のネズミイルカが飼育されています。これは,ストランディングネットワーク北海道が函館市の定置網から保護収容した個体から,獣医の判断により水族館に移送して長期飼育をした方がよいと判断された個体です。おたる水族館では,学術研究目的で長期飼育を行っています。
アツコという名前のついたメス個体は,飼育下で3回の出産を経験しています。1回目は流産,2回目は出産したが,すぐに死亡してしまいました。3回目は2017年5月に出産し,母親の哺乳行動が見られないため,飼育員が24時間体制で人工哺育をしましたが,13日後に肺炎により死亡してしまいました。
ネズミイルカの飼育は,おたる水族館を含め,世界で4水族館でしか行われていません。デンマークの水族館でも何度か飼育下で出産しましたが,長期に生存した例はまだありません。
おたる水族館での飼育個体を使って,さまざまな研究が行われています。例えば,混獲防止策開発のために,ネズミイルカが通過することができる幅を測定しています。また,エコーロケーションと視覚の使い分け,ネズミイルカが嫌がって逃げていくと考えられる音の効果の測定,血中ホルモンの分析などが行われています。
ちなみに,ネズミイルカは食用にはなりません。食べるとお腹を壊すといわれています。積極的に捕獲をされることは今までは無く,これからも無いでしょう。でも,沿岸に生息するために,混獲や海洋汚染などの人間活動の影響を受けやすいイルカです。人間と共存できるように,さまざまな研究を行っていく必要があると考えています。
写真:おたる水族館のネズミイルカ(おたる水族館ホームページから)
キリン研究者郡司芽久博士から応援メッセージをいただきました!
2023/3/13 14:56
このページを見てくださっている皆様へ
初めまして、東洋大学生命科学部の郡司芽久です。
彼らと同じ「大型哺乳類の研究者」として、このクラウドファンディングを心から応援しています!
(私の研究対象であるキリンは、クジラに比べたらずっとずっと小さいですが)
「クジラの研究をする」というと、きっと多くの方は、船にのって大海原に飛び出して、双眼鏡を覗きながら野生のクジラを探し求める…というようなものをイメージするのではないでしょうか。
確かに、そういった方法でクジラの研究をする方も多くいます。けれどもそれ以上に、世界各地に「クジラの遺体」を用いて研究をしている方々がいます。
なんらかの事情で死亡し、海岸へと流されてきてしまった遺体を活用し、「なぜ死亡してしまったのか?」「何歳くらいだったのか?」「生前は何を食べていたのか?」など、そのクジラがどんなふうに生き、どんなふうに死んでしまったかを考えていくのです。
その場で調査をするだけでなく、骨格や皮膚、筋肉、胃の中に残されていた「食べたものの残骸」などを研究史料として保管し、後世の人々へと引き継いでいくこともあります。こうして残された史料は、いずれ誰かの手に渡り、何かの発見へとつながっていくでしょう。
海で死亡したクジラの巨大な体は、そのまま海に沈めばさまざまな海洋生物の栄養源となりますが、研究者らの手に渡れば人類の知の栄養となるのです。
遺体をもちいた研究をする上で大切なことは、2つあります。
1つめは、なるべく多くの遺体を集めること。死因を調べるにも生前の活動を推察するにも、たくさんのデータの蓄積が必要です。たった1つのデータを手に入れたとしても、照らし合わせるデータベースがなければ、そのデータの意味を考えることはできません。
2つめは、遺体が発見されたら1分でも早く駆けつけることです。当たり前のことですが、遺体は、死亡して時間が経つほどに腐敗が進み、朽ちていってしまいます。内臓に刻まれた病歴や体に刻まれた外傷はわからなくなり、「なぜ死んでしまったのか?」を解明することが難しくなります。胃の中身が取り出せなければ、「何を食べていたのか?」を推測できなくなります。
つまり、「なるべく多くの遺体の元へなるべく早く駆けつける」ことがなにより大切なのです。そのためには、いつでも動かせる車の存在は不可欠です。
振り返ると、「動物の訃報が飛び込んできたら、盆も暮れもなく飛び出していく」という諸先輩型の姿は、学生時代の私の憧れでした。知りたいことや使命感に背中を押され、動き出す姿がとても輝いて見えたからです。
データを残し、蓄積していくことは、地道で長い道のりの活動です。一人の力では成し遂げることはできず、活動自体が長く続いていく必要があります。
このクラウドファンディングは、今クジラの調査を担っている方々へのサポートになるだけでなく、「調査車両に飛び乗ってクジラの元へ駆けつける人々」の姿を通じて次世代の研究者の育成にもつながっていくのではないかと思っています。