寄鯨調査の現実
2023/3/9 12:23
これは,本当にあった寄鯨回収対応時のLINEの記録です。
最初,ネズミイルカ1個体を遠別町で回収するつもりで,軽自動車で2人で遠別に向かいましたが(軽トラで片道7時間半はきつすぎるため),出動中に帰りに通る留萌で漂着の情報。現場に着いたら,ネズミイルカ2個体とイシイルカ1個体(妊娠個体!!)が漂着していました。無理矢理軽自動車にネズミイルカの頭骨とイシイルカの全身を新たに載せ,帰ってきたという事例です。
ハイエースがあれば……
少し長めですが是非ご覧ください!
SNH調査部ライングループ
2023.03.07 火曜日
10:41 [松田] イルカ写真.pdf
10:42 [松田] 遠別町でネズミイルカが漂着しました。函館から回収を考えています。
11:42 [松田] 函館から,柴田・菅野で回収に行くことになりました。今日出発,明日朝回収,明日函館戻です。
12:08 [柴田調査員] 出発しました!
19時半~20時頃に宿到着予定です
15:40 [松田] さきほど留萌建設管理部さんから連絡があり,先ほど現場に行ったところ,やはり食害で小さくなっちゃったとのことでした(´;ω;`)今更かもですがブルーシートかけておきましたとのことです。めげずに回収してきてもらえると助かりますm(__)m
また,立会は必要ないとのことだったので,明日の朝,しばちゃんと菅野でさくっと回収してしまってください。
15:43 [柴田調査員] 承知しました!
ありがとうございます
18:38 [松田] 受報情報転送
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以下のストランディングを発見したので通報します。
通報者:****
通報者所属:一般人
通報者電話番号:******
発見日時:20230307
発見場所市町村名:留萌市
発見場所詳細:黄金岬
体長:1.5m
頭数:1頭
状況:腐敗
カラスの餌
通報経路:通報者が発見
写真・情報・発見者姓名の公開,写真公表の可否:はい
備考:ほぼ毎日、海岸をウォーキングしています。今回は久しぶりに黄金岬まで行きました。Facebookで報告すると、こちらに送るといいとアドバイスありました。
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18:38 [松田] 画像
18:38 [松田] 留萌でもう1個体です。
しばちゃん、菅野、明日帰りにひろってもらえる?詳細な場所を聞いておきます。
18:42 [柴田調査員] 承知しました!帰りに拾います
19:50 [柴田調査員] 遠別の宿に無事到着しました
2023.03.08 水曜日
08:49 [柴田調査員] 画像
08:49 [柴田調査員] 1頭目回収完了しました!
08:50 [松田] おつかれさま!
11:35 [松石]クアラルンプールです。6分前にこの地図が来ていました。
11:40 [菅野調査員] 地図の共有ありがとうございます。これから留萌市内でお昼を食べて13:00頃現場に着く予定です。
11:44 [松田] お手伝いに現場に来ていただく?
11:53 [菅野調査員] お手伝い必要ないかと思います。今朝1頭目運んだ感覚だと2人でもいける。
11:54 [松田] ギリギリだし、お手伝いいただくのも申し訳ないけど、13時頃にいただいた地図の地点に行ってみますと連絡しておきます。
11:55 [松田] お会いできたらSNHのパンフレットお渡ししておいて下さい!
11:55 [柴田調査員] 承知しました!
12:52 [柴田調査員] 黄金岬です
通報のあった個体の他に、イシ1頭とほぼ骨のやつが1頭います……
12:52 [松田] なんだって
12:52 [柴田調査員] 画像
12:53 [柴田調査員] イシは載るか怪しいです…
12:53 [松田] さすがに無理やろな…
12:56 [松田] では、イシについてとりあえず記録をとってもらおうかな。
番号はちょっと待って。
持ち帰るのは、最初のネズミイルカと、可能なら骨の子。
イシについては、全身写真、各部写真(可能な範囲で)/雌雄確認/全長計測/筋肉脂皮だけマキリでサンプリングして帰る
12:56 [松田] というのはどうかな?
12:56 [松田] できそう?
12:57 [柴田調査員] 承知しました。雨も降ってきたのでできる範囲でトライします!
12:57 [松田] うん、できる範囲で!
12:57 [松田] ハイエースガアレバナー笑
13:06 [柴田調査員] イシイルカの生殖孔から胎仔の尾びれが見えている画像
13:06 [松田] まーーーじーーーーかーーーー
13:07 [松田] えーーーなんでいまなんだろう…
13:07 [松田] ちょっとはやいな…
13:07 [松田] えーーーー
13:07 [松田] ていうことはこのイシけっこう大きいね?
13:07 [松田] 全長何センチ?
13:09 [柴田調査員] 204cmです
13:10 [松田] やっぱり となるとびくともせんやろな… うーーーーん
13:10 [松石] 留萌の土現に応援を求める?
13:11 [松田] そもそも菅野カーには積めないと思います
13:11 [松田] 明日別チームが出て現場調査を行うとか
13:11 [松田] ↑今日ブルーシートかけておいておいてもらって
13:12 [松石] 助手席まで使っても難しいよね?
13:19 [柴田調査員] 尻尾だけ落とせば無理やり載せられるかも…
13:20 [松田] 落としてもいいけど持ち上がらないんじゃ…
13:24 [松田] 松田は明日出動可能です(おかげさまでリバイズおわった)
13:26 [松田] 生田ボーイとかなぐちゃん行けそうなら、早朝に出て現場調査、明日のうちに帰るができるかなと思ったり
13:27 [生田調査員] 明日行くこと可能です!
13:31 [松田] 菅野と電話で話しました。
今日の留萌のネズミイルカ×2については、頭だけ持ち帰り。
とりあえずイシイルカを持ち帰るチャレンジをしてみます。
できないとなったら連絡します。
とのことです。
もし、可能であれば、ネズミイルカの頭落とす前に全長計測と雌雄の確認だけやってもらえると…
本当に現場おつかれさまです(T_T)
13:47 [柴田調査員] 画像
13:48 [柴田調査員] イシいけそうです!!!!!
13:48 [松田] わぁ~~~~ありがとう!ありがとう!!すごい!!
13:49 [松田] ブルーシートとか色々と足りなかったら現地で買って大丈夫だからね
14:20 [黒田] おお!!!!頑張ったねえ!!(T△T)
本当にお疲れ様です~!
14:26 [柴田調査員] ネズミ×2、全身計測と雌雄確認と頭部回収完了しました。
残骸はそのまま放置で大丈夫ですか?
14:26 [松田] とりあえず現場放置で大丈夫です。ありがとう!よくがんばったねぇ(´;ω;`)
14:27 [松石] 松田から留萌の土現に話をしておいてください。
14:28 [松田] はい,しておきます
14:38 [松田] 留萌建設管理部に連絡済みです。
14:46 [松田] 遠別町ネズミイルカ…SNH23003
黄金岬ネズミイルカ(1個体目)…SNH23004
黄金岬ネズミイルカ(白骨化)…SNH23005
黄金岬イシイルカ…SNH23006
とします。同所的に漂着しているものの,腐敗度合が違ったり,昨日の1個体目の発見の時点ではなかったであろうことを考えると,マスストランディングではなく,シングルストランディングと捉えます。
14:47 [松石] (御意スタンプ)
14:48 [柴田調査員] イシの尾側ってその場に放置しても許されますか…?
14:48 [松田] ゴミ袋にいれてつんでかえってこれたりする?
14:49 [松田] 無理そうなら放置でもいいよ
15:18 [松田] 積み込み終わった…?
15:47 [柴田調査員] 今やっと全部載りました( ; ; )
15:48 [柴田調査員] 画像
15:48 [柴田調査員] ハイエースホシイ
15:49 [松田] ひゃーーーー!!まじでお疲れ様でした(T_T)(T_T)(T_T)
15:49 [松田] トッポすごいな…よくのったな…
15:49 [柴田調査員] 画像
15:50 [松田] 発見者の人にもお手伝いいただいた?
15:50 [柴田調査員] イシは1枚目の状態で持ち帰ります、現場2枚目の状態で離れました
15:50 [柴田調査員] 発見者さんはお仕事があるとのことで作業開始前にお帰りになりました パンフレットお渡ししました
15:51 [松田] 完全に2人でやったんやね!本当にお疲れ様でしたm()mすごい、まじで。
15:55 [松田] 鳥や狐の良いエサとなることだろう…
15:59 [柴田調査員] ・イシ→全身(3分割)
・遠別ネズミ→全身
・黄金岬ネズミ①→頭部,脂皮・筋肉少量
・黄金岬ネズミ②(白骨化)→頭部
を函館に持ち帰ります。ガンバッタ
2人とも全身ずぶ濡れなので留萌の道の駅に寄って体制立て直してから出発します…!
16:03 [松田] 本当にお疲れ様でした!どうぞ帰路気を付けて帰ってきてください!風邪とか引かぬよう…
17:18 [松田] 函館到着予想時間は何時頃かな?
17:30 [柴田調査員] 休み休み行く予定なので,日付変わる前くらいに着くと思います
17:31 [黒田] 本当にお疲れ様でした!雨大変だったね… ご安全にね~><
17:32 [松田] 了解です!ゆっくり帰ってきてください!
じゃあイルカ下ろすのは明日の朝でもよいかな?
一応明日ウェットラボでの解剖を考えてます。
参加できる人どれくらいいる?生田ボーイは聞いてます!
17:34 [柴田調査員] イルカ下ろすの明日の朝で大丈夫です!(菅野さんより)
明日の解剖柴田も参加できます〜
17:45 [名倉調査員] 10時半ごろからになりますが参加したいです!
18:19 [生田調査員] 新3年生の山田宗草がすでに函館にいるらしいので,声かけてみてもよろしいですか?
18:51 [松田] もちろーーん!
18:52 [松田] 明日9時からでどうでしょう?今日夜遅いししばちゃんしんどいかな?
18:58 [竹内調査員] 人手足りますか? 行こうと思えば函館行けます
18:59 [松田] うそ〜笑 そりゃ来てくれれば超助かるよ
18:59 [生田調査員] 山田宗草9時から参加できるとのことです。
19:02 [柴田調査員] 9時で大丈夫です!
19:03 [竹内調査員] では行きます!
19:29 [松田] わーい!ありがとう!
19:29 [松田] ありがとう!無理そうだったら遠慮なく言ってね
19:30 [松田] 菅野朝しんどかったら研究室に車の鍵置いといてくれれば、そして車の場所教えておいてくれれば、いる人でなんとかするのでね!
19:44 [柴田調査員] 朝来るつもりですが,一応車の鍵は研究室の鍵掛けにかけておきます。(菅野さんより)
22:16 [菅野調査員] 今有珠山です(ご飯ゆっくりしすぎた…)残りも安全運転で帰ります!
2023.03.09 木曜日
00:50 [菅野調査員] 今戻りました。車と鍵は写真の場所です。
00:50 [菅野調査員] 画像
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調査員は翌日9日の0:50に函館に無事帰着。9:00から解剖が実施されました(この活動報告をアップしている今も実施中です!)。
SNHの活動紹介③ 成果を広める
2023/3/8 11:02
SNHでは,得られたストランディング情報をいろいろな形で,一般市民や研究者に広く公表しています。 まず,会誌 humpe yan(フンペヤン)です。アイヌ語で「クジラがうちあがった」を意味します。アイヌの人々は漂着したクジラを頻繁に利用しており,「フンペヤン」はアイヌ語の教科書の例文に出てくるほどです。
humpe yanは,毎年3月ごろに発行されるSNHの会報です。前年の漂着情報のほか,標本を使って得られた研究の成果など短いコラムを掲載することもあります。クラウドファンディングで10,000円以上寄付してくださった方には,通常会員限定でお届けしているhumpe yanがリターンとしてお手元に届きます。どうぞお楽しみに!
また,SNHのストランディング情報はGBIF-地球規模生物多様性情報機構のデータベース
シンポジウム形式で行われる代表的なイベントが,「くじら講座」です。 ストランディングのピークも落ち着いてきた秋ごろに,道内の各地で開催しています。第1回は「博物館で泳ぐイルカ・クジラ」と題し,2022年11月19日に帯広市で開催されました。国立科学博物館の田島木綿子先生と足寄動物化石博物館の新村龍也先生を講師としてお招きし,海岸にうちあがった鯨類が博物館の標本となるまでの過程について興味深いお話をいただきました。ほかにも,SNHのスタッフが,標本を使って得られた研究成果についてお話し,会場が満員となるほど多くの方々にお越しいただきました!もちろん,第2回くじら講座も今秋の開催に向けて鋭意計画中です。開催地はどこになるのでしょうか,楽しみにお待ちください。
他にも,SNHはこれまで北海道大学CoSTEPが主催するサイエンスカフェや,小学生向けオンラインワークショップ「たねまきめぶき」,北海道大学水産学部公開講座など幅広い世代の方に向けて,漂着鯨類研究の大切さとその成果を伝える活動を行ってきました。これからも,よりたくさんの方に興味を持っていただけるよう,発信の場を広げていきます。
SNHの活動紹介② 標本を活かす
2023/3/7 10:15
SNHが行う調査では,筋肉や脂皮(しひ,皮下脂肪のついた皮),内臓,骨格などの標本を採材します。それぞれの標本がどのように使われているのか,ご紹介します。
まず,筋肉からは,DNAを調べることができます。
DNAは鯨類のそれぞれの種に固有の特徴をもつので,たとえ腐ってしまって外形から種判別ができない場合でも,DNA判定により種判別を行うことができます。
脂皮は色々な研究の対象になっていますが,鯨類が体内に汚染物質を蓄積していないかどうかを調べる研究によく使われます。ダイオキシンやポリ塩化ビフェニル(PCBs)など一部の汚染物質は脂に溶けやすいため,厚い脂皮をもつ鯨類の体に蓄積されやすいという特徴があります。体内の汚染物質濃度が高くなると,繁殖率や免疫の低下につながる可能性があります。
内臓からは,いろいろなことがわかります。気管から細かい泡が出てくれば,その個体は溺れて死んでしまったことを意味します。胃の内容物からは,食べていた生物の種類を知ることができます。生殖腺や乳腺を見れば,その個体が性成熟していたかどうかを推測することができます。内臓が新鮮であれば,ホルマリン液に浸けて固定し,内臓が病気にかかっているかどうかを調べることもできます。
2022年11月10日時点で,SNHの標本を使って発表された学術論文は42本,博士の学位論文は6本,学会発表は117題あります。SNHの標本が,日本における鯨類研究と次世代の研究者育成に役立っているのです。
SNHの活動紹介① 受報から調査まで
2023/3/6 11:55
今回は,漂着を受報してから調査が行われるまでの流れをご紹介します。
よく通報をくださるのは,沿岸にすむ住民の方や,漂着物を拾い収集するビーチコーマーの方です。釣り人や,サーファーの方が通報くださることもあります。
SNHが通報を受けると,まず写真と位置情報をお送りいただき,種判別をしながら出動できるかどうかを検討します。
海岸管理者の方と連絡を取りあいながら,現場で作業したほうがいいか,持ち帰った方がいいか,人員は何人必要かを瞬時に判断します。早いときには,なんと受報後1時間以内に出発することも!
出動範囲は,道内全域が対象です。事務局があるのは北海道の南部に位置する函館市ですが,日本最北の離島・礼文島まで出動したこともあります!
もちろん,東西南北を問わず道内どこへでも出動しますので,鯨類の漂着を見つけた際はご一報ください。
大規模な調査の時は,道内で鯨類を研究しているほかの機関と一緒に調査をすることもあります。帯広畜産大学(帯広市),東京農業大学生物産業学部(網走市)の方々には,函館から遠い道東・道北方面の調査の際に特にお世話になっています。
時には調査中に別のストランディングがあり,現場から現場へはしごすることも。
調査員の体験談を後日ご紹介しますので,どうぞお楽しみに!
調査の後は,北海道各地のおいしいものを食べて英気を養ったり,温泉に入ってゆっくり体を休めることも楽しみの一つです。
函館に帰って,後片付けを済ませ,家に帰るまでが調査です。事故を起こさないよう,安全に帰ります!