鯨類紹介:ネズミイルカ2
2023/3/13 10:30
ネズミイルカがストランディングする場所は,北日本で,太平洋側でも日本海側でも見られます。北海道では函館,室蘭,襟裳岬,根室~羅臼,宗谷岬付近,石狩湾で発見が多くなっています。
2009年までに日本全国で報告されたストランディング240件のうち,74%が漁業の混獲によるものでした。日本全国のストランディング位置を調べると,3月~5月には,津軽海峡付近を中心に,新潟から宗谷岬までや根室海峡付近,6~11月までは襟裳岬と根室海峡付近,12~2月には,再び本州付近で発生しています。
残念ながらロシア海域や北方四島海域でのストランディング発生状況の情報は入手できませんが,繁殖場所はオホーツク海北部や日本海北部サハリン沿岸などにあり,冬は流氷などを避けるために日本沿岸に南下していると考えられています。
図:2007~2021年にSNHに報告されたネズミイルカの漂着場所
鯨類紹介:ネズミイルカ1
2023/3/12 12:20
ネズミイルカは,北半球の温帯から亜寒帯沿岸に広く生息する小型のイルカです。イルカは英語でドルフィンdolphinまたはポーパスporpoiseと言われます。ドルフィンはハンドウイルカなど吻があるイルカを指しますが,ネズミイルカは吻がないポーパスです。
特徴がないのが特徴と言われるぐらい明確な特徴がありません。背中は濃いグレーで腹側は白い。口角から胸鰭にかけて黒い線が目立つことが多いです。体長はおとなで1.4~1.7mで,メスの方が大きくなります。食性は,底でじっとしているようなタラなどの魚類から,小型のダンゴイカ科イカ類,イカナゴなど幅広い餌生物を利用しています。
大西洋,特に北海では刺網などによるネズミイルカの混獲が多数発生していて,それに対する研究も進み,混獲を防ぐための対策なども進んでいます。一方,日本周辺のネズミイルカについては,ほとんど情報がなく,現在,ストランディングの標本を集めて研究が進められています。
沿岸に住んでいるために,人間活動の影響を最も受けやすいイルカです。海岸に打ち上がっているのを見つけたら,是非SNHにご連絡ください。
分布図出典:FAO (1994) FAO Species Identification Guide Marine Mammal of the World
もしも浜辺でイルカ・クジラをみつけたら
2023/3/11 10:33
イルカやクジラの座礁・漂着・混獲・河川港湾への迷入など、通常の生息状態ではない状態にあることを寄鯨(ストランディング)と言います。生きたまま座礁・迷入した場合は,うまく扱えば命を救うことが出来ることもあります。鯨類は洋上ではなかなか細部まで観察できないため,死んでしまった寄鯨は貴重な科学標本です。寄鯨調査から新種が発見されることもあります。
寄鯨に出会った場合,どのように対処したら良いかを,ここにまとめておきます。
1. 生存しているかどうか確認してください。
2. 写真を撮ってください。全身,頭部,口,腹,背びれ,尾びれ,状況など。全身写真は,メジャーやペットボトルを写真に入れて大きさがわかる様に工夫してください。
3. 体長をなるべく正確に測ってください。
体長はメジャーで測れると一番良いですが,メジャーがない場合は,ペットボトルの高さ (500ml=約20cm,2L=約30cm) を利用して測ることもできます。体長の測定は,その後の対処の準備に重要です。なるべく正確に測定してください。
4. 北海道内の場合,ストランディングネットワーク北海道の通報窓口 北海道いるかくじら110番へご連絡下さい。
通報専用電話 090―1380―2336
公式LINEアカウントもあります。
※北海道以外の場合は,以下へ連絡し指示を仰いでください。
鯨類漂着一般:国立科学博物館 Tel: 029-853-8901 (担当:田島木綿子先生)
ヒゲクジラの混獲・漂着:日本鯨類研究所 Tel: 03-3536-6521
生存している場合,現場の方が,海に戻す努力をした方が良い場合もあります。その際,感染や怪我の危険がありますので,必ず専門家の指示を仰いでください。
京都大学三谷曜子教授から応援メッセージをいただきました!
2023/3/10 11:29
このページをご覧いただいている皆様,ありがとうございます.京都大学野生動物研究センター海獣班の三谷曜子と申します.
ストランディングネットワーク北海道のクラウドファンディングを応援しております!
北海道の海にはたくさんの鯨類がやってきます.海の中で悠々と泳ぐ彼らですが,様々な理由で命を落としたり,弱ったりして岸に打ち上げられることがあります.死んでしまった鯨類たちは,そのままにしておくとゴミとして処理されてしまいます.でも,研究者が回収して調べることができれば,彼らがどんな生き方をしてきたのかを知ることができるのです.
そんなの,生きている鯨類たちを海で観察することでもわかるのでは?と思われるかもしれません.しかし,彼らが私たちの目の前でその姿を見せてくれるのは,息をしたり,水面で過ごしたりする一瞬の間です.その行動をずっと追いかけて観察することも難しいのです.北海道の海でかなりの時間,海棲哺乳類を探した経験がある,と自負している私ですが,鯨類が何かを食べているところを実際に観察したというのはないかもしれないくらいです(イルカたちが鳥山になっている海面の下で何かを追いかけているようにぐるぐる回ったり,シャチがクジラを囲んでいたりするのは見たことがあるのですが,餌を口に入れた瞬間は見たことがない・・・).ですので,彼らがどんなものを食べていたのか,その個体がオスかメスか,何歳で,大人なのかどうか,など,情報の少ない鯨類の生活史を教えてくれるのは,岸に打ち上がった彼らの体なのです.
そんなふうに貴重なサンプルの宝庫,ストランディング個体ですが,いつ,どこで発見されるのかは鯨類次第,そして海流や海況次第というところがあります.北海道はとても広く,うちあがったという報告が来てからかけつけるのに,とても時間がかかります.例えば,函館から知床半島まで,車でぶっ続けで走って10時間もかかります.そんな状況でもかけつけるSNHのみなさまには,本当に頭が下がります.
どんな調査でもそうですが,このような調査は,経験の積み重ねによって成り立っています.初心者がいきなりストランディングを調査できるということはなく,教えてもらい,たくさんの調査に参加することで調査技術を磨き,また教えていくことで受け継がれていくものです.そのような調査を皆さまのご支援があれば,続けていくことができます.そして専用車両が導入されれば,たくさんのストランディング調査へと未来の鯨類研究者を乗せていくことができます.ぜひ,皆様の温かいご支援を,どうぞよろしくお願いいたします!