ロンドンのトランスプライドに参加して
2024/10/28 17:23
掲載日:2024年10月28日 執筆者:りりぃ
<トランスプライドとは>
2024年7月27日、ロンドンで開催されたトランスプライドというパレードに、SWASHメンバーと参加してきました。このパレードは、もちろんトランスジェンダーへの差別反対や当事者たちの人権回復を訴えるために開催されています。ただし、それだけではなく、多くの企業が協賛したりD&I(多様性と包摂)のような言葉を掲げたりするけれど、どこかお金儲けの香りがする…そんなプライドパレードのあり方に賛同できない人々による代替イベントという側面も持っているとのこと。
<パレードの様子>
当日のロンドンは、とっても過ごしやすく快適な気候で、時折雲の間から透き通るような青空が見えました。パレードの出発地点には、私が勝手に予想していた10倍ぐらいの参加者がいて(なんと5万5千人以上参加していたとか)、至る所にトランスフラッグが見えました。さらに、すごいのはその人数による行進時間で、そこそこの速さで3時間以上ロンドンの中心部を歩き続けたのです。ちなみに、数年前から変形性股関節症を患い長時間歩けない私でしたが、こっそり休憩してはダッシュで追いつくという感じで、何とかゴール地点までたどり着けました。パレードの雰囲気は、すごく自由でのびのびとしていて、メッセージを書いた段ボールを掲げてシュプレヒコールをあげている人もいれば、沿道でビール片手に犬の散歩をしながらトランスフラッグをまとっている人なんかもいました。
私は当初、ロンドンにはトランスヘイターがたくさんいるのではないか…と身構えていました。しかし、トランスフレンドリーな人たちがこれだけたくさんいて、これだけ自由なかたちで、これだけ連帯の意志を示してくれている。しかも、そこには有名なアーティストのパフォーマンスも、ごきげんな音楽を奏でるフロートも、名だたるグローバル企業による協賛もない。そんな草の根でクィアな活動を目の当たりにして、ちょっと言葉では言い表せないような感動的な気持ちになりました。
<セックスワーカー団体>
今回、私たちはロンドンのセックスワーカー団体であるSWARMのメンバーと一緒に歩きました。SWARMは、赤色のロゴと蜂をイメージしたシンボルマークを掲げながら行進していて、これが実に洗練されていたし目立ってもいました。また、メンバーには移民やトランスジェンダーの人もいれば、地味な普段着の人やなぜか上半身裸で背中にSNSの連絡先を書いている人もいる。当然ながら一枚岩ではないけれど、それぞれ自分なりに楽しみながらトランスプライドに賛同して歩くSWARMメンバーたちの姿は、とてもかっこよく憧れました。
ロンドンと同じく、日本でもトランスヘイトは深刻です。さらに、セックスワーカーに対しても、国が公然と職業差別をする程深刻です。そんな状況にへこたれそうになる日々ですが、トランスプライドのようにたくさんのアライと呼ばれる味方を増やし、またSWARMメンバーたちのように毅然とした姿勢で、差別に立ち向かっていかなければと思っています。
プレスカンファレンス:フランスの買春処罰法に関する欧州人権裁判所の判決とセックスワーカーの応答
2024/10/21 16:22
掲載日:2024年10月21日
はじめに
SWASHのクラウドファンディングにご協力いただきありがとうございます。
私たちは、買春処罰法に反対することを目的にこのプロジェクトを開始しました。買春処罰法は、スウェーデンやフィンランドなどの北欧で最初に導入されたことから「北欧モデル」と呼ばれることもあります。北欧の「福祉国家」というイメージがこの法律の普及に影響を与えていますが、実際には北欧を含む世界中のセックスワーカー権利運動団体から、買春処罰法によって労働環境が悪化したというネガティブな影響が報告されています。そのリアルを映したドキュメンタリー映画の一つが『ぜんぶ売女よりマシ』です。11/8 (金)に東京・歌舞伎町でも上映予定ですので、ぜひお越しください。
お申し込み(定員50名):
プレスカンファレンス
今回は、2024年7月25日、国際エイズ会議で行われた買春処罰法に関するセックスワーカーとサポーターによるプレスカンファレンス(記者会見)の様子をまとめた記事です。実際の様子は、ヨーロッパの30カ国以上、100を越えるセックスワーク団体によって構成されるESWA(European Sex Workers Rights Alliance)のYouTubeチャンネル(英語)で見れますので、ぜひご覧ください。
ESWA(European Sex Workers Rights Alliance)のYouTubeチャンネル(英語)
まず、この記者会見の背景について説明します。2019年12月、261人のセックスワーカー(その多くは移民)が欧州人権裁判所に以下のことを訴えました。彼/彼女らは、フランスの買春処罰法が、セックスワーカーの職業選択の自由や性的自己決定権、身体の安全、健康、尊厳を守る権利と両立するかのかどうかを問いました。そして、2024年7月、最終的に欧州人権裁判所はフランスの買春処罰法が、第8条(主に私生活及び家庭生活の尊重についての権利)に違反していないと判断しました。これは、訴えたセックスワーカーたちにとって残念な結果でしたが、裁判の過程で、買春処罰法がセックスワーカーに悪影響を及ぼしていることが認められました。また、訴えた人たちによる証拠によって、刑罰化はセックスワーカーが直面するリスクを増加させることを示していること、そして、状況の変化に応じてこの法律を見直す必要があることも認めました。これは難しい裁判の中で訴えた人たちが得た一部の勝利でした。この記者会見は、この判決に対する主にフランスで活動しているセックスワーカーとサポーターたちの応答です。
スピーチのまとめ
少し長くなりますが、どのスピーチの内容も非常に素晴らしかったため、できる限り分かりやすく日本語に翻訳しました。ただし、すべてを逐語訳したわけではなく、要点をまとめたものになります。
まずは、私たちも国際エイズ会議直前にパリでお会いした世界の医療団(Médecins du Monde)で活動する弁護士サラ・マリーさんによるスピーチです。
「アムネスティ・インターナショナルや国連の世界保健機関(WHO)など、多くの国際人権機関は、セックスワークの犯罪化が人権侵害であり、セックスワーカーたちをより搾取されやすい立場に置くことを指摘しています。これらの機関は、セックスワーカーの基本的人権を守るために、非犯罪化の必要性を主張しています。私たちも同様に、完全な非犯罪化によりセックスワーカーの人権が守られることを求めています。しかし、欧州人権裁判所は、買春処罰法の悪影響を認めたものの、セックスワーカーたちを裏切りました。私は、アライとして、すべてのセックスワーカーが人権を享受できるまで、完全な非犯罪化を求め続けます。」
二番目は、Mimiさん。フランスのトランス移民セックスワーカー団体Acceptess-Tの代表で、フランスのセックスワーカー労働組合STRASSのメンバーでもあります。彼女自身も移民のトランスのセックスワーカーで、パリを拠点にしています。
「まず、こちらの写真をご覧ください。彼女はフランス・パリに住んでいたペルー出身の移民のトランスセックスワーカー、ジェラルディンです。彼女は先週殺されました。買春処罰法の影響で、彼女は貧困に苦しみ、命を奪われました。他にも、ヴァネッサ、ジェシカ、サバなどが、スティグマや差別によって命を失っています。2016年に買春処罰法が導入されて以来、セックスワーカーに対する暴力や殺人が増えています。特に、トランス女性や移民女性がより多くの被害に遭っています。また、警察の取り締まりにより、顧客との交渉が難しくなり、コンドームの使用が難しくなった結果、HIVや梅毒の感染も増えています。欧州人権裁判所の判決は、この議論を後退させました。しかし、私たちは、自分たちの権利のため、非犯罪化のために戦い続けます。勝利を目指し、ストリートから国会まで、あらゆる場面で階級闘争(class struggles)と大規模な動員(massive mobilisation)を行い、戦い続けます。最後に、世界中のセックスワーカーたちへ。私たちは団結しなければなりません。私たちは国境を越えて、私たちはすべてのセックスワーカーの勝利のために、連帯しなければならないのです。」
国際家族計画連盟(International Planned Parenthood Federation:IPPF)のルカ・スティーブンソンさんによるスピーチ。
「欧州人権裁判所は、買春処罰法がセックスワーカーの権利を侵害していることを認めましたが、今回の判決には非常に残念に思います。どのようなかたちの犯罪化も、セックスワーカーの脆弱性やジェンダーに基づく暴力、HIVのリスクを増加させてきました。また、セックスワーカーたちを必要なサポート(例えば、医療アクセス)からも遠ざけています。IPPFは、フランス政府に、買春処罰法を廃止し、セックスワークの非犯罪化を求めます。スウェーデン、ノルウェー、カナダ、イスラエル、韓国など、他の国でも買春処罰法が導入されていますが、これらの国々も同様にこの法律を廃止する必要があります。IPPFは、全ての人の自己決定権が尊重され、ジェンダーに基づく暴力がなくなることを目指しています。非犯罪化は、公衆衛生だけでなく、人権の観点でも緊急の問題です。今こそ非犯罪化が必要です。」
次は、ヨーロッパのセックスワーク団体ネットワークESWAの代表、サブリナ・サンチェスさんです。
「今日は欧州人権裁判所が、非正義を正すための貴重な機会を無駄にした日です。しかし、この判決は、残念ながら驚くべきものではありませんでした。ヨーロッパ、そして世界中のセックスワーカーたちは長年、十分な正義にアクセスすることができていません。欧州人権裁判所は、現状維持を選択しました。2018年にフランスで買春処罰法が導入されて以来、30人以上のセックスワーカーが殺されました。この法律によって、多くのセックスワーカーのメンタルヘルスも悪化しました。特にパンデミック中、フランス国家から経済的・社会的支援を受けることが難しくなったためです。例えば、すでにヨーロッパ諸国で導入されている生活費の上昇や移民の取り締まり政策など、構造的で本質的な問題が続く限り、私たちセックスワーカーは魔法のように消えることはありません。私たちは、セックスワーカーの権利、安全に働く権利を求めて、また、ファシズムやパレスチナに対するジェノサイドに反対して戦い続けます。¡Las putas unidas jamás serán vencidas, las putas unidas jamás serán vencidas(団結したあばずれたちは決して敗北しない)! 」
最後に、国連特別報告者であるトラレン・モコフェン (Tlaleng Mokofeng)さんによるスピーチです。
「欧州人権裁判所に対する私たちの訴えは、セックスワークのあらゆる犯罪化がセックスワーカーたちの健康に生きる権利(the right to health)を侵害し、国際人権法に反しているというものでした。私は、欧州人権裁判所に買春処罰法がセックスワーカーに与える影響について証拠を提出しました。長年セックスワークが感染症の温床だというモラルパニックが続いています。セックスワーカーたちは、感染症について知識も情報があっても、公共のセクシュアルサービスにアクセスできないのが現状です。さらに、職業に対するスティグマだけでなく、ジェンダー、セクシュアリティ、障害、人種、移民などによって差別されていることも要因です。これは、レイシズム、植民地主義、帝国主義など構造的でインターセクショナルな問題です。国際法において、フランスはセックスワーカーたちの健康に生きる権利を護義務がありますが、例えば、その一つであるセックスワーカーのプライバシーの権利は侵害されています。買春処罰法導入によって、セックスワーカーは監視社会のターゲットになりました。警察官によるハラスメントの被害をより受けるようになったのです。救助的(savior)なアプローチは、セックスワークの歴史やコンテクストのニュアンスを理解することが難しいです。私は、UNAIDS、UNFPA、UNDP、国連人権高等弁務官と協力し、フランス政府に対して「刑罰的アプローチは機能しない」と訴え、セックスワークの非犯罪化を求めていきます。非犯罪化こそが、セックスワーカーの人権を尊重する唯一の手段です。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の基本理念である「誰も置き去りにしない」を実現するためには、まず、置き去りにされている人たちの存在を認めることが必要です。しかし、今回の判決は、まさに誰かを置き去りにする決定でした。私たちはモラルに基づく判断ではなく、証拠に基づき、この戦いを続けなければなりません。これはフランスだけの問題ではありません。セックスワーク、食料不足、住宅問題、貧困、戦争など、グローバルに繋がった問題について議論することが重要です。そして、誰が議論の中心にいるのかを問う必要があります。ジェノサイドは公衆衛生の緊急事態です。私たちは、パレスチナ、コンゴ、スーダンの人々と共に立ち上がるべきです。なぜなら、彼らも帝国主義や植民地主義による暴力の中で生きているからです。私は、ジェノサイドを今すぐ止めるため、停戦を求めるとともに、ヨーロッパ諸国がイスラエルへの資金援助や武器提供を停止するよう強く要請します。セックスワーク is ワーク。もうまた10年も待てません。今すぐ非犯罪化を!」
写真:記者会見後に行われたセックスワーカーとアライによるデモの様子
日本でも…
日本でも、買春処罰法が導入されてしまうと、記者会見でそれぞれが示していたようなリスクが高まる可能性があります。まさに、フランスで、その悪影響を目の当たりにしてきたセックスワーカーの活動家の話を聞いていて、いろんな感情がこみ上がり、涙がこぼれ落ちました。
ミミさんが言っていたように、職種や出身地、ジェンダー、セクシュアリティが違くても、すべてのセックスワーカーの安全のために私たちは連帯していく必要があります。買春処罰法は、国家や行政による特定の職に就く人たちの、特定の移民の、トランスジェンダーの、「生(lives)」のコントロールです。性産業に従事する人々の貧困や性感染症、暴力や差別の問題は、この法律を導入するだけで簡単に解決するのでしょうか。どれも資本主義、家父長制、異性愛主義、移民差別などが複雑に絡み合う問題であり、それらに取り組むための第一歩は、当事者たちの経験や声に耳を傾けることではないでしょうか。SWASHはこれからも、ヨーロッパで集めた証拠や調査結果を共有していきますので、引き続きクラウドファンディングへのご協力をお願いいたします。
国際エイズ会議におけるSWASHの発表
2024/10/14 17:39
掲載日:2024年10月14日
SWASHは、2024年7月22日〜26日にかけてドイツのミュンヘンで行われた第25回国際エイズ会議に参加してきました。この記事では、NSWP(Global Network of Sex Work Projects )ESWA (European Sex Workers Rights Alliance )が主催する「Sex Worker Networking Zone」で行った私たちのプレゼンテーションについてご紹介します。
<国際エイズ会議とは?>
国際エイズ会議は、HIV/エイズに関する国際会議です。エイズ流行のピークであった1985年に初めて開催され、1994年に隔年開催となるまで毎年開催されてきました。様々な分野の専門家たちが集まり、関連する政策やプログラムなどについて話し合います。
国際エイズ会議は、歴史的にセックスワーカーたちにとって重要な場であり、セックスワーカーの活動家たちは、長年グローバルビレッジ(入場料無料)でセックスワーカーのためのブースを設けて参加してきました*1。一般的なアカデミックな会議では、セックスワーカーが「専門家」として扱われることは稀ですが、この場では、セックスワーカー自身が自分たちのことを最もよく知っているという考えのもと、世界各国のセックスワーカー団体が活動報告を行ったり、提言を発表したりします。
*1セックスワーカーと国際エイズ会議の歴史については、NSWPが詳しくまとめています。
https://www.nswp.org/page/international-aids-conferences
<SWASHの発表>
私たちは、日本における性産業の状況とコミュニティ主体の取り組みの問題点について話しました。何度も練習を重ね、発表は全て英語で行いました。日英字幕付きの動画は以下のURLからチェックできます。
まずは、SWASHの紹介をしました。SWASHは、セックスワーカーの安全と健康を向上させることを目的に、セックスワーカー主導の団体であり、支援者とともに活動しています。私たちは、セックスワーカーのために役立つ情報を「赤い傘」というウェブサイトで共有したり、政府や研究者と協力し、性感染症予防の啓発活動をしたりしていることを伝えました。
次に、日本の性産業に関する法律について話しました。日本の法律において、売春とは、不特定の相手と、対価を引き換えに性交することを意味します。ここでトリッキーなのは、法律において禁止されている性交とは、膣ペニス性交のみをさしており、例えば、アナルセックスやフェラチオなどは、含まれていないことです。これらの説明を口頭でするよりも、実際にビジュアルとして見せた方が伝わりやすいと思ったので、人形やバナナを使用して話しました。
また、コロナが日本の性産業に与えた影響についても紹介しました。例えば、世界中でいわゆる「エイズパニック」が起きている時にゲイコミュニティが感染の温床とされましたが、コロナパンデミックの時も、似たように性産業を含むナイト産業が感染拡大の原因だと批判されたことや、「不健全だから」という理由で性風俗店が政府の給付金の対象外*2になったことなどを話しました。
*2「セックスワークにも給付金を」訴訟に関しては、こちらをご覧ください。
近年、性感染症対策などの医療や政策の現場では、「コミュニティ主導」が推進されていますが、それを実現する難しさや、そのために必要な構造的な変革について提言しました。SWASHメンバーそれぞれが草の根活動の経験を振り返りながら、十分な助成金が必要な人たちに届かないことや、ほとんどプロボノベースで委託事業をお願いされることなどの問題点を指摘しました。
最後に、日本で買春処罰法が導入される動きに対する懸念について話しました。最近、「女性を守る」という名目で買春処罰法導入の必要性を主張する女性支援団体や研究者が、大手新聞社などで取り上げられ、政治的な議論にも積極的に参加しています。一方で、実際に性産業で働く人々やその支援を行う団体は、そのような議論に参加するのは厳しいです。世界中のセックスワーカー活動家たちは、研究者や国際機関の職員などと協力し、買春処罰がセックスワーカーに与える悪影響について証拠を提示してきました。*3
SWASHも最近、パリ政治学院のエレン・ルバイ教授にフランスのケースについてインタビューを行い、その動画を公開しましたので、ぜひご覧ください。*4
*3
*4
今回の国際エイズ会議への参加では、買春処罰法の悪影響について、弁護士や活動家など最前線で調査研究を行っている人たちから直接お話を伺える機会になりました。SWASHは、今後もSTOP!買春処罰法キャンペーンを通して、これらの報告を行っていきたいと思います。次の記事では、フランスのセックスワーカーたちが買春処罰法について欧州人権裁判所に訴え、その判決を受けて行われたプレスカンファレンスについて取り上げます。異なる分野の専門家たちの意見をまとめていますので、ぜひお楽しみに。
パリで話を聞く
2024/10/7 14:16
パリでは3つのセックスワーカー支援団体と法律家からお話を伺いました。フランスでは買春処罰法もあり、セックスワーカーを取り巻く環境は決して良いとはいえません。しかし、パリやそれ以外の地域都市でも、医療や生活について、セックスワーカーへの支援も継続的に行われ、どれもがユニークなものでした。今回のレポートでは、それらの団体と法律家の活動について、紹介していきます。
Les Roses 'adcier(ル・ロゼ・サドゥシェ)
中国人移民女性と中国人セックスワーカーのために設立された団体。日本語に訳すと「鋼鉄のバラ」です。セックスワーカー当事者で構成され、年会費15ユーロを払うと、団体として取り組むプログラムや委員を選ぶ選挙権が与えられます。2022年度は会員が201人会員、会員以外でも400人が活動に参加しています。1000人以上が参加した買春処罰法に反対するデモでは、Les Roses adcierのメンバーが300人以上参加しました。
移民がデモに参加することは、移民の多いパリであってもハードルが高い行為です。ですが、買春処罰法が「人身売買被害者のため」という、お題目を掲げながらも、結局、一番打撃を受けるのは自分たちだと理解した人達の切実な訴えが現れた行動だったのです。もちろん、個人が特定されないように、お面をつけるなどという対策が講じられました。
Les Roses adcierの事務所はACT UP Paris内にあります。ACT UPは、ウィルス性肝炎、その他のSTI(性感染症)と闘う団体です。加えて、性的少数派および性的少数者の権利を求める運動も行っています。1987年にニューヨークで、アメリカの劇作家であり同性愛者の権利活動家のラリー・クレイマーが発足。ACT UP Parisは、1989年から始まりました。セックスワーカーの支援団体が、性的少数者への性感染症予防啓発と協働しているのは、日本とも共通しています。
Les Roses adcierの繋がっているセックスワーカーは、40代以上の女性が一番多く、この年代を超えると乳がんや子宮がん等、大病を患う人が増えていきます。大きな病気は手術や治療が長くかかります。だから、手術や治療を控えたワーカーは早いうちにお金を稼ごうと、コンドーム無しのプレイを受け入れるなどリスクの高い働き方を選ぶ傾向にあります。そこで、Les Roses adcierは、フランスのエイズ予防財団に「公衆衛生の問題はセックスワーカーだけでなく、社会の問題である」と、大きな病気で今までのように働くことが難しいワーカーに、月300€が治療の期間中に支給されるよう要求し、見事に実現しました。
セックスワーカーの多くはお金の為に就業します。性感染症罹患のハイリスク層の1つでもあります。ハイリスクな行為を受け入れるのは、社会、その人が置かれている状況なども要因となり、性的な行為のみならず、生活面などへの視点も大事になります。
Les Roses adcierのメンバーに、SWASHに対していただいた助言は、「支援活動にはお金がかかるものだ。だから沢山発信して、もっと人に伝えて、必要なお金を(政府などに)要求しなさい」というものでした。
日本にいると、お金の話をするのは野暮のように思いがちですし、NGO活動は無償が美しいように捉えられます。しかし、それでは取り組みを行う人員を擦り減らしてしまうのです。こうした問題にも改めて気づかされる時間でした。
ACT UP Parisの写真。
セックスワーカーの支援をする団体の事務所が「社会と社会文化のセンター」に入っている。
Jasmin(ジャスミン)
Jasminはセックスワーカーに対する仕事の中で起こる暴力と闘うためのプログラムです。
フランスのセックスワーカーへの数々の支援取り組みに助成を行っている団体が、【medecins du monde(世界の医師)】です。medecins du mondeは、最も脆弱な人々のケアに取り組み、医療へのアクセスに対する障壁を取り除くことを目指しています。また、尊厳及び人権の侵害を非難し、全ての人々の保健政策における持続可能な改善を達成することにコミットしている団体です。
Jasminの取組の特色の1つに、暴力や窃盗、粘着質な態度などのセックスワーカーの心身にとって有害なクライアントの情報を共有するシステムがあります。詳細はこのシステムを使用するセックスワーカーの安全性を守る為書きませんが、フランスでは個人交渉が主なので、こうした有害なクライアントとの接触を防げるシステム作りはとても重要です。
その他にも、短編映画のように作成された「警察がセックスワーカーだと見くびって勝手なことを要求してきた場合の対処の仕方と正しい知識」や「セックスワーカー自身が発明した自己防衛のスキル」の映像が団体のWebサイトに掲載されています。移民向けのアドバイス(居住許可が無くても権利行使をするため)なども用意されています。
SWASHが伺った時には、事務所でオンラインを使用したアウトリーチが行われていました。メンバーの1人は社会学者でもあり、世界中の様々な地域で暮らしてきた経験があります。こうした経緯が、各セックスワーカーの置かれた状況が多様であることへの理解に繋がっているのかもしれません。メンバーの1人は、以前来日した際に入手したSWASHの資材を見せてくれました。
Jasminを始め、セックスワーカーの医療に助成を行っている「Medecins du monde」のロゴ。
Jasminの法律家サラ・マリーさん
同じく、Jasminのメンバーである法律家のサラ・マリーさんにお話を伺いました。彼女はフランスのセックスワーカー261人が、「買春処罰法は人権侵害である」と欧州人権裁判所に訴えた裁判を担当しています。
お会いした日はとても暑く、飲み物を出してくれながら日本の状況にも興味を示して下さいました。サラ・マリーさん以外からも渡欧中に何度も訊かれたことですが、「どうしてSWASHはメンバーがそんなに少ないの?」と尋ねられました。日本ではアクティビズム自体が身近でないこと等を説明しました。「そうか、ここはフランス革命のお膝元!」としみじみと感じ入りました。
日本の売春防止法では、不特定多数との金銭を介した膣ペニス挿入行為のみが「違法」とされること、その割に不特定多数の範囲がはっきりしないこと、グレーゾーンの職種があること、グレーゾーンを成り立たせている理屈などにもとても関心高い様子でした(どちらかと言えばOh! my godの表情)。
SWASHがサラ・マリーさんに教えていただいたことは、買春処罰の影響の実態や法の成り立ちの経緯、その当時の反響等でした。
買春処罰についての記事を参照:
彼女の話の中で驚いたのは、ネットでの個人売春の場合、警察も「買う」を証明することは難しい。なので捕まる人も少ない。ネットでやり取りを行うことにハンデがある、フランス語や英語に不得手な移民ワーカー達がストリートに多くなる構図があるということです。脆弱な立場の中でも、さらに周縁化されるのが移民たちというわけです。
サラ・マリーさんとはパリ視察後の国際エイズ会議でもご一緒し、彼女のセックスワークの非犯罪化を強く求める声にとても勇気づけられました。日本でも買春処罰法立案が懸念されていることにとても心配をし、今後も何か力になれることがあればと励ましてくれました。
Lotus Bus(ロータスバス)
Lotus Busは、パリにおける中国移民ワーカーに向けたアウトリーチプログラムです。中国からの移民が多い地域に事務所があります。以前は事務所がなく、バスで移動し活動していたそうです。
中国からの移民セックスワーカーの多くは、フランス語を話すことが出来ず、使える社会制度の情報にアクセスすることも困難な場合があります。使うことが可能な社会的制度から離れていることもあり、彼女ら/彼らにとって、自身の情報を言葉がわかる状態で受け取れることは死活問題に繋がります。Lotus Busでは、中国からの移民セックスワーカー自身が、中国移民セックスワーカーが多い売春地域でのコンドーム等の配布を通じて、正しい情報や相談先を伝える「アウトリーチ」のアプローチを行っています。意義のあるプログラム内容を伝えるためにも、共通する体験と言語がわかることは大きな力になります。
アウトリーチでは、コンドームの配布だけでなく、コンドーム(ペニス用ヴァギナ用共に)の装着の仕方を模型を使ってレクチャーもしています。正しい装着方法を確認できるよい機会にもなります。アウトリーチのフィードバック方法も匿名性を守り、簡潔に作られており、気軽に参加しやすく、アウトリーチに参加するワーカー達の負担も少ないものになっています。
また、セクシュアルヘルスだけでなく、法的な相談、在留の支援、医療支援なども行っています。移民のケースによっては、フランスの医療制度にアクセスしやすい状況ではない人もいます。そんな時でも、医療を安心して受けることが出来るようなサポートをしています。
事務的な用務を請け負っているのはIT関係の仕事に従事する中国から移住してきたセックスワークの経験がない方でした。非当事者なのに、どうしてセックスワーカーの活動に参加しようと思ったのか訊いてみました。この活動にセックスワーカーの活動に、全く関与していない頃、バスでアウトリーチ活動をしているLotus Busを見かけて関心を持ったそうです。その話を伺った時にいただいたアドバイスは「どんな人が、どんな事をしているのか、見えないと人は関心を持てない」でした。
私たちは活動を続けていると「もう充分言っている」ような気がする時があります。「同じ事を何回も言い続けてしつこいと思われてないかな?」と気が退ける時があります。でも、しつこいと思う人が9人いても1人が「初めて知ること」に繋がるかもしれません。私たちのような草の根のNGOは、その数としては、少なく見えるほうに狼煙をあげ続ける事がとても重要なのだと再確認するひと時でした。
SWASHが事務所に伺っている最中に、気持ちを新たにしたことがあります。それは、私たちは「お邪魔をしている」ということです。共通項としてセックスワーカーであるとしても、私たちは数日で帰ることが決まっている訪問者であり、ここでアウトリーチに参加するセックスワーカー達と持っているリスクは違います。当然ですが、最初はとてもよそよそしい態度が、私たちに向けられました。しかし、ある種の居心地の悪さ、警戒される空気というのは、私たちの存在が彼女たちにリスクを感じさせていることの表れだと感知できなければならないものです。そうした気持ちを忘れず、同時にある程度の貪欲さも発揮し色々訊いている内にLotus Busのスタッフも自分たちの取組を見せながらとても丁寧に説明くださいました。帰りに一緒にパブでちょっと一杯(ノンアル)引っかけながらお互いのパーソナルな来し方などを話し、笑い、ハグをして別れたのでした。
駆け足で過ごしたパリ視察でしたが、皆さん本当にパワフルでフレンドリーでした。話してみると、パリでも日本でもセックスワーカーを取り巻く環境には共通することが沢山ありました。
法やモラルが、セックスワーカーに対しては、人権を凌駕してくる。そんなことがあってはいいはずがない。でも、この部分を世に拡く、説得するのは本当に骨が折れることです。
性が絡むと多くの人は客観性と他人との境界線がブレがちです。性は誰にでも何らかの形で存在し、とてもプライベートなことだから。それでいて制度設計にも関与する、とても公的なことでもあります。だからこそ網目を細かく、範囲の広いカラフルな網を多くの人と紡いでいく必要があるのだと、そうしたことに気づかされるパリ滞在でした。
パリの移民の多い地域での性感染症検査所。LGBTQのマークと共にセックスワーカーの権利運動のモチーフである赤い傘も。セックスワーカーにも安心して利用出来ることを示している。
Lotus Busでコンドーム(ヴァギナ用ペニス用)の装着方法の確認に使うグッズを実際に試させてもらった。ヴァギナ用を装着するのはひと際コツが必要でした。
買春処罰の危険性を訴えるリーフレット作成
10,000円
今回作成するリーフレットのプレゼントとイベントへのご招待に加えて、国際エイズ会議のお土産(バッジ、キーホルダー)
、世界中のセックスワーク団体が作成している冊子やノベルティをプレゼントします!
活動報告イベントの開催
10,000円
今回作成するリーフレットのプレゼント、イベントへのご招待に加えて、国際エイズ会議のお土産(バッジ、キーホルダー)
、世界中のセックスワーク団体が作成している冊子やノベルティをプレゼントします!
買春処罰化を止めるための宣伝活動
10,000円
今回作成するリーフレットのプレゼント、イベントへのご招待に加えて、国際エイズ会議のお土産(バッジ、キーホルダー)
、世界中のセックスワーク団体が作成している冊子やノベルティをプレゼントします!