プログラム・ディレクターが全作品を徹底解説!メイド・イン・ジャパン篇(6)
2022/10/15 17:56
プログラミング・ディレクターの神谷直希による見どころ解説。メイド・イン・ジャパン部門のご紹介です。
■メイド・イン・ジャパン部門
「彼女はなぜ、猿を逃したか?」(高橋泉監督)
脚本家の高橋泉さんと俳優の廣末哲万さんによる映像制作ユニット「群青いろ」の最新作です。当映画祭で群青いろの作品を上映するのは2014年のコンペティション作品「ダリー・マルサン」以来で、高橋監督の作品を再びご招待できることをとても光栄に思っています。
少々トリッキーな仕掛けがあるので、実は紹介するのがすごく難しい作品です。動物園の猿を逃がして世間やメディアを騒がせた高校生の少女がいて、彼女を取材している女性ライターと映像制作の仕事をしているその夫を中心に物語が進む……まずはそう言えるでしょう。女性ライターが取材を進めるうちに次第に精神の均衡を崩していく姿が、ある種のメディア批評を交えた心理劇として描かれるのですが、その後に驚きの展開が待っています。人間の邪悪さや底知れなさを描く点はこれまでの群青いろの作品と共通しているのですが、今回はそこから一気に反転し違う地平にも同時に向かっている、そんな印象を受けました。ぜひ実際にスクリーンで確かめていただければと思っています。
チケットは明日10/16(日)発売!(続く)
(文・深津純子)
プログラム・ディレクターが全作品を徹底解説!特別招待作品篇(5)
2022/10/15 11:25
第23回東京フィルメックスは10/29(土)~11/5(土)の8日間に18作品の上映を予定しています。昨日に引き続き、世界の名匠の最新作を上映する特別招待作品の見どころをプログラミング・ディレクターの神谷直希が詳しく解説します。
「ホテル」(ワン・シャオシュアイ監督)
現在の中国映画を代表する監督のひとりであるワン・シャオシュアイの最新作。9月のトロント国際映画祭でワールドプレミア上映されたばかりの作品です。
コロナウイルスによるパンデミックが始まり世界中でロックダウンなどの対策が取られ始めた頃を舞台にしています。タイのチェンマイの少し古びたリゾートホテルに足止めされた何組かの中国人観光客たちの数日間の物語で、そのなかの若い女性を中心に話が進みます。この女性はコミュニケーション能力に長けており、彼女がいろんな人に話しかけたりするなかで、少しずつ波紋が起こり始め、それが徐々に大きくなっていく様が描かれます。ミニマルと言っていいくらいシンプルな作りのモノクロ作品ですが、脚本がとても緻密に組み立てられていて、撮影のフレーミングや編集もすごくいい。リゾートホテルが舞台なのでよくプールのシーンが登場するのですが、気が付いたらとても深いところにまで連れて行かれている――そんな気持ちにさせる作品になっています。
「ナナ」(カミラ・アンディニ監督)※写真は本投稿トップのサムネイル画像参照
昨年のフィルメックスのコンペティション作品「ユニ」に続いて、早くもカミラ・アンディ二監督の新作をご紹介することができるのをとても嬉しく思っています。本作はベルリン映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映され、銀熊賞の最優秀助演賞が出演者のローラ・バスキさんに贈られました。
60年代後半のインドネシアで起きた紛争に巻き込まれて家族を失ってしまったナナという女性が主人公です。ナナは数年後にかなり年上のお金持ちの男性と結婚し、家庭に入って安定した生活を送っているのですが、その環境は彼女にとって新たなる牢獄とも呼べるものでした。良き母、良き妻として家庭を維持していくことを暗黙に期待される一方、夫は浮気を繰り返している。そんな状況のなか、ナナは夫の最新の愛人であるイナという女性の存在に気づき、彼女と対面することになります。思いがけないことに彼女とイナは心の深い部分でつながりを持ち始め、それによって彼女の内面にも少しずつ変化が現れるという物語です。前作にも少しそういう傾向があったかもしれませんが、今回はさらに落ち着いたタッチで、時おりウォン・カーウァイを思わせる色彩のシーンも登場するとても美しい作品です。
貴重な作品ばかりのこの機会、お見逃しなく。チケットは明日10/16(日)発売!(続く)
(文・深津純子)
プログラム・ディレクターが全作品を徹底解説!特別招待作品篇(4)
2022/10/14 07:57
第23回東京フィルメックスは10/29(土)~11/5(土)の8日間に18作品の上映を予定しています。世界の名匠の最新作を上映する特別招待作品の見どころをプログラミング・ディレクターの神谷直希が詳しく解説します。
■特別招待作品
オープニング作品「ノー・ベアーズ」(ジャファル・パナヒ監督)
「人生タクシー」「ある女優の不在」などで知られるイランの巨匠ジャファル・パナヒ監督の最新作。9月のヴェネチア映画祭でワールドプレミア上映され、特別審査員賞を受賞しました。ご存知の方も多いと思いますが、パナヒ監督は今年の7月、その数日前に逮捕されたモハメド・ラスロフ監督とモスタファ・アレ・アフマド監督の状況を確認するために訪れた検察局でそのまま逮捕されてしまい、6年の刑期を言い渡され現在も当局に拘束された状態です。
今回の作品では、ふたつの物語が並行して語られます。ひとつはいわゆる「映画内映画」で、パナヒ監督がトルコで新作映画を撮影しているという設定です。監督自身は当局による活動制限で外国に出られないため、トルコとの国境にほど近い村に滞在し、そこからオンラインで映画の演出するという形をとっています。もうひとつの物語は、その滞在先の村にまつわるもの。村の若者同士の恋愛が地元に伝わる昔からの風習によって引き裂かれそうになり、騒動が巻き込き起こります。「これは映画ではない」(2011)から10数年にわたってパナヒ監督が作ってきた一連の自己言及的な映画の流れに位置する作品ですが、おそらくその中でもベストといえるのではないかと思います。ぜひ、スクリーンでご覧いただけると幸いです。
クロージング作品「すべては大丈夫」(リティ・パン監督)※写真は本投稿トップのサムネイル画像参照
クロージング作品は、コンペティションの審査委員長でもあるリティ・パン監督の最新作。今年2月のベルリン映画祭でワールドプレミア上映され、銀熊賞の芸術貢献賞を受賞しました。
イノシシの将軍に率いられた動物たちが人間たちを奴隷として支配しているディストピア的世界が、粘土の人形を使ったユニークなミニチュアで表現されています。動物たちが暴力的なやり方で人間たちを酷使する状況がそのミニチュア世界の中で描かれるのですが、その世界のいろいろな場所にモニターのような画面が設置してあって、そこに人類がこれまで行ってきた様々な残虐行為のアーカイブ映像が表示され、ナレーションの言葉が重なっていく作りになっています。イメージと言葉の洪水のなかで、人類の過去や未来についてじっくりと考えさせられる作品です。
どれも見逃せない作品ばかり。チケットは10/16(日)発売です!(続く)
(文・深津純子)
\(^^)/【ご支援御礼】
2022/10/14 00:01
いつも応援ありがとうございます。
お陰様で、ご支援者様が200名を突破いたしました。
10/18までの残りの期間、引き続き応援よろしくお願いします。
事務局・金谷重朗